「愛しい分だけ切ないから」第27話

“帰りにまた寄る”

という疾風からのメールを受けとっていた藤井は
もうとっくに来てもいいはずなのに姿をみせない疾風を心配していた。

「どっかに食事でも行ったのかな。それとも、呆れてもう・・・」

そう呟くと窓のところに立って外を眺める。

マンションまで続く道には人影すら見えない。

そのまま空を見上げて月を見ると
折れそうに細い三日月はそれでも辺りを明るく照らしていた。

「あんなに細いのに・・・」

彩は両腕で自分の体を抱え込むように座り込み月を見上げる
今まで誰にも言えずにしまい込んでいた傷を
疾風にさらけ出してみたけれど
それで疾風がどう思ったかという不安は一層深くなった。

もちろん彼は
「もっと俺を溺れるくらい好きになれ」
などと優しい言葉で包み込んでくれた。

けど、疾風がいなくなった時の不安は拭いきれない。

もう2度とここには来ないのではないだろうか?と思ってしまう。
早くここに来て安心させて欲しい。

しかしすぐに彩はクスッと小さく笑った。
そして月に向かって問いかけた。

「あなたは全て見ていて知っているんですね。それなら答えて欲しい。
本当にそれでいいんですか?」

自分では心地良いところにいられればそれに越したことはない。

でも、それでは疾風に悪い様な気がしてならない。

罪悪感を持ちながら、もう一度道路に視線を落とすと
携帯電話の着信音が鳴った。

疾風からだと思って素早く携帯電話を取り出すと
電話に出る。

「先生ですか?」

「・・・」(違う、誰?)

「僕ですよ。嫌だなぁ~先生の濃厚なキスの味は忘れませんよ」

赴任したばかりのあの日、生徒会室に行ったときに
無理矢理キスをされたことを思い出した。

「・・・北条?」

「やっと思い出してくれてうれしいですよ。あ、こんなことばかり言ったら
ここにいる人に叱られますからやめておきます」

「誰がいるんだ?」
ふと彩の頭を疾風のことがよぎった。

だが、疾風のことはまだ誰にも口外していないので
あえてそのことは口には出さないで尋ねた。

「ああ、先生こっちに来ませんか?先生に会いたいって言う人がいるんです。
もちろん僕もそのひとりなんですけどね。」

冷静だがどこか楽しんでいるような北条翔太の声に彩は嫌な予感がした。

疾風が翔太と一緒に自分をからかっているのだろうか?

そうだとしたら自分はなんという愚かな人間だろう。

だが、身から出たさびなら自ら断ち切るしかないだろう
それにはこの目で確認したい。

そんな思いが彩の不安を染め上げていく。
「わかった。どこへ行けばいい?」




彩は電話を切ると肩に上着を羽織って
外に飛び出した。

色んな不安

翔太といるのは誰か?
どうして呼び出されたのか?
疾風はどうして何も言ってくれないのか?
最初から全て仕組まれていたとしたら・・・
今まで疾風が自分を騙していた?
あれは全部嘘だとしたら・・・

考え出すとなにひとつ良い方向には考えられない。

「バカだオレ・・・」

もう月の明かりなど届かない
彩はとても暗くて深い闇へ向かっている気がした。


<つづく>


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段々やっとクライマックスが近づいてきました。
気づくと長いこのお話(汗)

本編の「キンモクセイの魔法に誘われて」を超えています。

プロットとかろくにないまま
主人公の人格だけの設定で進めていたのに
クライマックスがあって良かった


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